​森の素形/mori no sokei

・農林水産省林野庁「JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2020 」受賞作品

・日本建築家協会北海道支部「建築大賞2019審査委員賞」受賞作品

・北海道建築士事務所協会「きらりと光る北の建築賞」受賞作品

・HBC今日ドキッ!生中継

・Replan123「北の建築家」掲載

敷地は山麓に位置し,遠景にはピンネシリから暑寒別岳,近景には四季折々の表情を見せる森と実に借景に恵まれた環境であった.錆びた鉄板敷の長いアプローチを抜けた崖の上にこの「森の素形」はある.グレーに退色したその佇まいは,雑木群の繫茂する力強さや厳しい冬の風雪に耐え忍ぶかのような端然とした表情をまとっている.何度か森の中を歩くうちに,この森の延長のような空間,大地や空をも建築に取り込みたい,この生命力に満ちた木々を純粋な幾何に換言し,同化するような自立するような,そのような輪郭を与えたいと思うに至った.つまりは「森の素形」という状態を見出し,大きな幹のような構造体を崖の木々と呼応させるように層状に4列に立ち並べることとした.

粗いコンクリート壁に導かれた玄関の構えは狭く,銅板扉で介された玄関内は一転して広い.大きく穿たれた開口は意識を外の森へと自ずと導き,折紙のような鉄板の螺旋階段は上階へと視線を誘う.また住居の背骨部分には長大な家具の木々が聳え立ち,家族はそれを縫うように生活をする.この家具の森を含む4層のレイヤーによって「外の間」や「吹抜」といった空間的豊かさも数多く内包することができた.

玄関から家具の森に沿って歩みを進めると,やや下がったところに居間が開ける.床は外の地面と同じ高さとなり庭の草花を近くに愛でることができる.居間から家具の森越しにつながる斜向かいのDKには黒皮鉄板の大きなテーブルが設えられ,「外の間」上部より木漏れ日のような光が落ちる.また,家具の木々に架けられた廻廊のような二階は森の空中を歩くような感覚を与え,大小四つの吹抜けは上下にいる家族の存在を紡いでゆく.また吹抜上部の天井は鈍い反射性を与えることにより奥行きが生じ,あたかも空に近い状態となった.この銀盤の空は春夏の深緑や秋の紅葉,冬の白銀世界を映し込み,室内を四季色に染め上げている.各「間」には外の森の枝葉を抽象化した大きな板が空の下に浮かび,その時々の気分に合う枝葉の木陰に佇んでは自然の美しさを感受する.小さいながら複雑で,どこまでも終わりのないような住宅となった.僕らはこの森の原型のような場所でnLDKという概念から解き放たれた新たな感性を育くもうとしている。

【WOOD DESIGN AWARD 2020/賞評】

見る者の目を引く、幹をイメージさせる木の柱で構成された建物は、周辺の環境と調和している。内部は多様な居場所をつくり出しており、外と連続する空間や小さな和室など季節や気分で使い分けられるだろう。木材と異素材の組み合わせの妙もよい。

【北海道建築大賞2019審査委員賞/賞評】

審査委員/磯達雄氏

札幌の市街を見晴らす山麓の敷地に建つ。アプローチからの外観は単純な箱形に見えるが、平面は複雑に入り組み、短辺方向に6mほどしかない幅をさらに細く分割して、そこに「外の間」と名付けられた屋外空間を割り込ませている。図面で見ると窮屈そうなのだが、実際に内部に入ると開放的で、どこに居ても外の自然が間近に意識される。しかも中央に連なる壁柱状の収納部が大木のように寄り添ってくれるので、不安な感じも抱かない。これまでにない体験を味わえた住宅だった。
 

審査委員長/飯田善彦氏【総評抜粋】

今回2回目にして住宅、一般の2部門での募集となったが現地審査に選出された住宅3、一般5の作品には、どの建築にも豊かな物語があり、風土、気候、機能に関わる洞察があり、新たな歴史を作ろうとする強い意志があった。特に住宅は、3点共に、無数の可能性の中からなぜそのような建築を生み出したのか、という根本的な問いに対して、敷地が置かれた状況、生活空間の解釈を含め明確な意図によってこれまでにない成果を獲得している秀逸さを感じたし、一般建築も多岐にわたる要請を極めて知的に1つの環境にまとめているように思えた。最優秀、優秀、審査員個人賞、入選、は、順位づけというより私たち3人の異なる価値観が重なる領域の多少によるものである。これからも北海道という環境を突き抜けつつ射程を伸ばしインターナショナルな建築の地平に輝く作品を期待したい。

 

審査委員/小篠隆生氏【総評抜粋】

27作品から一次審査で、住宅部門3作品、一般建築部門5作品を現地審査対象作品として、8作品が選出され、審査員全員で北海道各地に散らばる作品群を審査した。その中で感じたのは、それぞれの作品が、北海道の自然環境にどのように寄り添って建築空間を構築するのかという初源的なテーマが主流だった第1回とは違う、都市や地域、あるいは社会に対してどのような建築をつくるべきなのか、という問いをそれぞれの建築家が背負い、建築のあり様に対して、明確なコンセプトと表現が行われているかということであった。そのため、作品が住宅であれ、一般建築であれ、地域や社会に対する建築家の姿勢とその作品自体が持つ強度がそのまま審査結果に繋がっていったと思う。この賞の主旨が示す「北海道の新たな建築文化に寄与する建築作品」への顕彰が、まさに「北海道」だからこそ創ることができる「北海道建築」に対するパースペクティブな視点を持った評価であると理解するならば、各審査員賞が設けられ、住宅2作品と一般建築1作品が選ばれたのは、その「北海道建築」の幅の広さと可能性があることを3作品を通じて示す必要性を感じたからである。そして、今後も繰り広げられる様々な努力の成果を期待しているからなのである。

【きらりと光る北の建築賞2017/賞評】

建築家の自邸は自分の主張が最大限に認められる唯一の建築であろう。山の中腹に位置するこの住宅もまた建築家の自邸と事務所を兼ね備えた建物である。旗竿の敷地は普通アプローチが長いので建物が隠れがちであるがここは前面に家がなく原野の中の一軒家の佇まいになっている。外観はRC造の箱のように見えるが、木造2階建て吹抜けの四角い外観は細い杉板を縦張りで覆い周りの樹木との一体化を図っている。長いアプローチを通り玄関戸を開けると、2階へ続く螺旋階段と吹抜けの廊下が建物を南北と貫いており、木立を連想して作られた柱型には枠無しで収納が組み込まれている。しっかりと計算された開口部の取り方は家のどの位置にいても外部を垣間見ることができる。さらに居間の壁・吹抜けの天井には、鉄板で外の景色を反射させ、四季折々の表情を室内に取り込むなど、ロケーションの良さを生かし、木・鉄・タイルなど、素の素材にこだわり、ディテールへのこだわりが、力強い空間を作っている。

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